寒さに備える植物
- 2021年7月20日
- 読了時間: 3分
更新日:2021年10月3日
植物の細胞液にはいろいろな物質が溶けているから0℃では凍らないが、軽い霜で一夜で枯れてしまうことがある。一方で冬の寒さの中でも緑の葉を繁らす植物も多い。越冬する植物には、冬の寒さに備えるために低温馴化(低温順化とも書く)という仕組みがある。それは、冬の初めに軽度の低温に一定期間遭遇すると、厳冬期の氷点下の低温でも凍らないように耐凍性(耐寒性)を高める仕組みだ。低温馴化を引き起こす低温の程度や必要な遭遇期間、その結果、獲得する耐凍性の程度は植物の種や品種、植物の部位などで異なる。冬小麦のある品種を例にすると、気温20℃で育てた個体はマイナス5℃程度で凍害を受けるのに対して、4℃の気温に1週間ほど遭遇すると凍害発生温度がマイナス15℃前後まで低下する。温かい時期に生長を続ける植物は寒さへの備えができていないから、マイナス3〜5℃程度の低温でも組織が凍結する。晩秋から初冬にかけて気温が10℃以下に下がると、生長が抑制されると同時に低温馴化が始まる。細胞内に糖やプロリン(アミノ酸の一種)を蓄積し、この結果、浸透圧が高まって凍りにくくなる。さらに細胞膜などの生体膜も凍結障害を受けにくい性質に変化する。細胞の外にある水が凍りだすと、細胞内の水が吸い出されて氷が成長する。これを細胞外凍結という。細胞外凍結が進むと、細胞内の溶質濃度が高まり浸透圧が上昇するから、細胞内はさらに凍りにくくなるというわけだ。早朝に茎葉が凍ったように見えても、それは細胞外の凍結であり、日中に温度が上昇すると解けた水が細胞内に戻って、再び元のしなやかな姿になる。低温馴化していない植物には、このような細胞外凍結の仕組みがなく、細胞ごと凍って障害を受ける。
このように植物は冬の寒さに備えるわけだが、備えができる前に急に寒さが訪れて凍害を受けることがある。早霜による被害がその典型だ。一方、春に気温が上昇して生長を始めた後に、寒が戻ると晩霜の被害を受ける。とくにリンゴやナシなどの花芽や花蕾、茶樹の新葉の晩霜害がよく観察される。
さて霜害、凍霜害と言われるが、霜がとくに悪さをするのだろうか。氷点より低い温度なのに凍らない現象を過冷却という。過冷却状態の液体に氷片が触れると液体が一気に凍結する。この氷片を添加することを植氷という。植物も強い放射冷却を受けた時などに過冷却状態になる。そこに霜が降りるとちょうど植氷と同じように作用して、過冷却状態の組織が凍結する。したがって霜が降りる時の方が、凍結の被害が増すと言える。稀ではあるが空気中の湿度が極端に低くて霜が降りないと、温度が低くても凍結の被害を免れることがある。
サボテンや多肉植物には乾燥下で体内の含水率を下げて耐凍性を高める機能がある。一般の植物でも水を控えて乾燥気味に育てると耐凍性が高まることがある。また樹木では日長が短くなったことを感じて冬に備える機能もある。植物は多様な越冬戦略を持っている。